コラム・インタビュー
見極めがむずかしい「医療機器の導入」...内視鏡検査システムの失敗事例から学ぶ
診療所を経営するにあたり、収益性はもっとも重要なテーマです。診療内容から収益の見込みを立て、必要な医療機器を見極めなければなりません。ここでは、せっかく導入した内視鏡検査システムが宝の持ち腐れとなった事例をもとに、コスト管理の重要性と、医療機器導入の判断のポイントを見ていきます。
消化器系を開業する場合にかかるコスト
消化器系を標榜した医院を開業する場合や、診療科を拡大する際に消化器系に対応できる専門医がいる場合、上部内視鏡検査・下部内視鏡検査の導入を検討することになるかと思います。
内視鏡検査の場合、1人の患者にかかる時間と必要な要員、人件費などを考慮すると、報酬の確保には、月20~30件程度の検査の実施が前提となります。
内視鏡検査用の設備を導入する際の初期費用は、プランにもよりますが、新品の場合は内視鏡システム全体で600万~700万円ほど、内視鏡洗浄機には150万~200万円程が必要となり、これに加えて、維持費用としては洗浄薬液などが必要となります。
内視鏡システムに関しては特定のメーカーへのこだわりを持つ医師も多いですが、内視鏡検査システムと洗浄機の機器導入コスト、洗浄液メンテナンス料を総合的に評価し、どの機器を導入するかを決めるようにしましょう。
求めるレベルや画質によっては、2社以上のメーカーでの相見積もりや交渉次第で、ある程度安くなることがあります。その結果、内視鏡システムの本体価格が100万~200万円も値下げされたケースや、洗浄液などの消耗品や保守契約に関しても、交渉によって大きく費用が抑えられたケースもあります。
自院で内視鏡検査を実施するなら、一般内科に注力する戦略が必要
内視鏡検査を自院で実施するとなると、内視鏡検査への切り口となる一般内科にも相当な力を入れる戦略が必要となります。
また、上部内視鏡のみを標榜する場合は競合も多いため、優位性を保つには、下部内視鏡検査の導入が重要となります。新規性・差別化を明確にしなければ、患者数の増加も厳しい状況です。
内視鏡検査で患者さんからよい評判、よい口コミを得て、検査件数の増加につなげるには、検査を実施する医師の技術・腕、安心できる鎮静や検査環境をいかにホームページでアピールできるかが重要になります。
そのためにも、初めて検査を受ける方、以前つらい思いをした方に、「オエっとしない」「痛くない」といった点をアピールし、楽に検査が受けられることを積極的に発信することが重要です。
検査の具体的な方法だけでなく、休憩室で安心できる環境が整っていること、鎮痛などの選択肢といったことをホームページや院内に掲示するだけでも「ここの内視鏡検査担当医は患者への気遣いがある」という印象につながり、患者様が病院選びをする際のプラス要素になります。
内視鏡検査システムが宝の持ち腐れとなってしまった診療所の事例
とはいえ、導入は簡単ではありません。機器導入やスタッフ雇用、検査環境の整備が十分でなく、内視鏡検査システムが宝の持ち腐れとなってしまった診療所の事例を紹介します。
Xクリニックは、都心部のテナントの1階部分で内分泌内科を標榜する診療所で、開院以来、糖尿病・高血圧・高脂血症・甲状腺疾患などの患者様が多く訪れ、診療件数も順調に増加、経営状況も好調でした。
開院から3年後、上階に入居していた皮膚科・形成外科のクリニックが移転することになり、Xクリニックの院長であるY医師は2階部分にも診療スペースを拡大することにしました。
Y医師は当初、130㎡ある2階部分にどのような診療科を新設するか、検査機器の導入をするのかの具体的なビジョンはありませんでした。
しかし、クリニック受診患者には、企業健診や人間ドックで異常指摘をされた生活習慣病患者が多く、内視鏡検査をワンストップで行うことができれば、利便性も高く収益も増加できると考え、内視鏡検査システムの導入に向けて動くことにしました。
とはいえ、Y医師は腎臓内科の医局出身であるため、自分自身で上部・下部内視鏡検査の実施するのは不可能です。そこで、自分の友人や先輩・後輩などを頼り、週3回、午前中に内視鏡検査を行う医師を2名確保しました。
しかし、ほかの曜日での検査担当を行う医師は確保できなかったため、いったんは月・水・木の午前中に上部内視鏡検査を行い、次第に実施できる時間帯・曜日を増加する、という方針を固めました。
機器導入の費用としては、内視鏡検査システム(新品 1台)と内視鏡洗浄機の合計で780万円の支出になりました。
ただし、内視鏡検査には、検査機器の導入と担当医師のみならず、医療安全面への対応や、患者への説明、検査の介助や休憩室の管理を行う看護師も必要であり、その看護師への教育を行うことも必要です。Y医師はこの部分を見落としていました。
とはいえ、幸いにも、勤務予定の非常勤医師と、常勤先の看護師を教育要因として確保することができました。Xクリニックの医療事務・看護師の2名を練習台として内視鏡検査を行なったのち、クリニックのホームページ、院内掲示などで内視鏡検査の実施を告知し、なんとか運用が開始されました。
当初は月に5件程度の検査を想定していました。しかし、スタッフが不慣れであること、安心・安全に検査ができるというアピールが不十分であるという口コミも影響してか、以後の検査件数は減少傾向となり、月2件にまで落ち込む時期もありました。
これに加えてY医師は、検査を行わない他時間帯に、収益確保として、同じ空間で発熱外来を行うという暴挙に出てしまいました。
内視鏡検査は、常に口をあけて検査を行うため、感染管理のためにも、感染症患者とは時間のみならず空間の分離が必須です。「内視鏡検査を行うスペースでは、発熱感染症外来は実施していませんので、安心して検査を受けてください」という旨を謳い文句としている総合病院やクリニックも多くみられるほど、患者様側からも重要視される要件です。
総合病院などの医療機関へアピールすることにより、病院のフォローアップを近隣のクリニックが担当する、といったルートが確立されているケースもありますが、Xクリニックの場合は医療機関へのアピールも不十分で、患者獲得のルートも確立していませんでした。
結果として、Xクリニックに導入された内視鏡検査は宝の持ち腐れとなり、月数回の洗浄液のメンテナンス費用も高くつくようになってしまいました。検査件数も減少し、最終的には内視鏡検査は月曜日の午前中のみ、それ以外は発熱・感染症外来を実施することになってしまいました。
内視鏡検査の導入でまず重要となるのは、消化器系医師が週の半数以上、あるいは限られた時間で連日実施するなど、月20~30件程度の検査が実施できるような体制作りです。
これに加えて、内視鏡システムの導入(内視鏡本体の台数)、発熱・感染症患者と分離する動線や空間のアピール、集客のための戦略など、多角的な要素の歯車が合わないと失敗するリスクがある検査でもあるのです。
株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭
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