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コラム・インタビュー

クリニック経営者が知っておくべき、インターネット上の誹謗中傷・悪評への対応策

集患・増患対策
弁護士法人山村法律事務所 弁護士 寺田 健郎

近年のインターネット、なかでもSNS上における誹謗中傷や悪評の問題は多くの人が目にするものであり、その標的は有名人や大企業だけに留まるものではありません。一般の方をお客様とするB to C企業は、とくに注意して対応すべきであり、対応のまずさによって問題が拡大したというケースも非常に多くあります。クリニック・病院も同じような営業形態であり、誹謗中傷や悪評、悪い口コミに悩んだことのある先生方も多いことでしょう。本記事では、クリニックにおける誹謗中傷や悪評が起きる背景、起こった場合の対処法やクリニックとして注意すべき点を解説していきます。

クリニックにおける「誹謗中傷」「悪評」が起こる背景

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近年、インターネット上における誹謗中傷等が社会問題化している点は、皆さんもご存じのとおりです。その対象も有名人ばかりではなく、一般人や中小企業が巻き込まれる例も多く見られます。このような問題は、スマートフォンの国民的普及やSNSの市場規模の拡大が要因として挙げられます。

他方で、クリニックのような医療機関は、上記のような誹謗中傷の社会問題化以前より、口コミサイトやGoogleレビュー等でインターネット上にて評価されることが多い業種でした。これは飲食店でも見られる傾向で、医療業態は従前より口コミを求められやすい業種であるといえるでしょう。

このように、元々口コミやレビューの需要が高い医療業界において、インターネット上の誹謗中傷の社会問題化は、対岸の火事、他人ごとではありません。ひとたび炎上したり、悪評が書き込まれたりすると、営業上のダメージを負うことは容易に想定できます。

ではそのような場合、どう対処すべきでしょうか。

初動対応の重要性

クリニックとしてまず抑えておくべきことは、具体的な対処方法以前に「初動対応」がなにより重要であるということです。

近年のインターネットは、投稿がごく短時間で拡散され、多くの人の目に留まります。そのためクリニックとしても焦ってしまい「火消しをしたい」「自分らの言い分を主張したい」という気持ちが先行し、誤った対応をしてしまう例も多いのです。もし対応を誤ると「誤った対応をした」ことが広く拡散され、より悪評が広まるというケースも生まれるのです。

具体的な対応方法は、投稿された内容や事実関係との一致によるため、ケースバイケースであり一般化しにくいことが通常です。荒唐無稽な言いがかりで無視してよいものなのか、クリニック側に非がありそうで謝罪の必要があるのかという点は、安易に類型化できるものではありません。初動対応は、弁護士をはじめとした専門家と素早く協議し、インターネットの流れに遅れないよう、早急に行うことが必要です。

具体的な対処方法

適切な初動対応までが終わったら、投稿された内容に応じて、クリニックとして取るべき対処方法を決定することが必要です。

悪質な誹謗中傷の場合

クリニックに対する口コミのなかでも、悪質な誹謗中傷といえる例としては、

  • 過去に医療ミスで何人もの患者が亡くなっている
  • 別の病院と違う診断結果を言われた、誤診だった

というものが挙げられます。

ポイントとして、事実を適示するものであること、クリニックの信用を落とす可能性があることであるかどうかという2点をまずは確認してみると良いでしょう。

このような投稿がされた場合は、クリニックが受ける営業上のダメージ次第ではありますが、

 ①SNS、口コミサイトに対して、削除を求める又は裁判所にて削除命令を出してもらう
 ②あまりに悪質な場合は、発信者情報開示命令の申立てをし、投稿主に法的請求を行う

という対処方法が考えられます※1

※1 ほかにも、SNS運用者に任意で開示を求める手段もありますが、開示がされることは少なく現実的な方法とは言いにくいです。

②の申立てについては、近年の社会問題化を受け、改正プロバイダ責任制限法が2022年に施行されたことで、従来より簡易な手続きによって発信者を特定することが可能になりました。

もっとも、上記の手続は、「誹謗中傷を行った発信者を特定する」という手続きに過ぎないため、クリニックとしては発信者に対して損害賠償請求という別途の裁判手続きを行う必要があり、まだまだ請求側に高いハードルがあるということができるでしょう。

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発信者に支払いを求めるまでには、まだまだ多くの時間とコストがかかってしまう制度ではありますが、悪質な誹謗中傷に対しては、しっかりと対応していくことが重要です。

感想や、悪評に留まる場合

他方で、クリニックのオーナーとして良い気分はしないものの、単なる悪評や感想・愚痴に留まるような場合は、対処が難しくなります。例としては、

  • 看護師の愛想がとても悪く、人情味が感じられなかった
  • 処方箋を貰うだけなのに何時間も待たされた

といった投稿が考えられるでしょう。

このような投稿がされた場合、残念ながら上記で挙げた発信者情報開示請求の要件を満たさない可能性が高く、法的請求をすることが困難な場合が多くなります※2

※2 発信者情報開示請求は、その要件の一つに「権利侵害の明白性」というものがあります。これは、請求者が、"当該口コミによってそのクリニックの名誉が毀損され、かつ、考慮すべき違法性を阻却する事由が存在しない"と主張・立証する必要があるというものです。もっとも、悪評や感想に留まる場合は、同要件を満たさず、発信者の開示が認められないケースが多いことが現状です。

まとめ

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クリニックのオーナーとしては、とくに悪評・感想への法的請求が難しいという点は、非常に腹立たしく感じるでしょう。

もっとも、近年のインターネット社会においては、患者様も学習しているところも多く、「いい口コミばかりのところは逆に信用できないのではないか」「業者に頼んでいるのではないか」と勘付く方も多いのです。全く悪評がない、苦情がゼロという状態も不自然ですので、ひとつの悪評を気にし過ぎないという姿勢もまた重要といえます。

悪評口コミを発見した場合は、それを目立たなくする・数を薄めるために患者様に良い口コミを書いてもらえるような関係作りをする、SEO対策等のインターネット広告にコスト投下するという方法も考えられるでしょう。

これらをまとめると、

 ①インターネット上の誹謗中傷や炎上が起こった際、初動対応が重要なことを認識し、専門家と早期に方針を決定する
 ②悪質な誹謗中傷がされた場合は、法的請求を行い、クリニックの被害回復を図る

というように、弁護士を使って予防と対策をする一方、

 ③悪評や感想に過ぎないネガティブな口コミについては、気にしすぎないことも重要。コストを投下するのであれば、弁護士ではなくポジティブな口コミを増やす方向に投下すべき

と、しっかりと口コミの内容を精査したうえで判断することが重要です。

現在のクリニック運営には、常に炎上、誹謗中傷のリスクが潜んでいるといえるでしょう。そのリスクに備えるためには、普段から対応策を講じること、知識を習得しておくことが何より重要です。

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弁護士 寺田 健郎

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