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医療労務で検討すべき「医師国保」と「協会けんぽ」...それぞれのメリット・デメリット

採用・教育・労務
株式会社TTコンサルティング 医師 武井 智昭

社会保険や福利厚生は、求職者が応募先を選定する際に重要視する要素であり、また、クリニックの経営側にとっても、支出や社会保障などの観点から、しっかりと検討すべき事項です。今回は、クリニックの増患に成功し、医療法人化するまでの期間、「医師国保」と「協会けんぽ」、どちらの社会保険を選択すればよいのかを考察します。

クリニックの院長が加入する「健康保険」とは?

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個人事業主である開業医が加入できる健康保険には、一般的な個人事業主と同じである「国民健康保険」のほか、「医師国保」「協会けんぽ」の3種類があります。

スタッフが5人以上となる個人開業のクリニックや医療法人の場合は、原則として協会けんぽへの加入が前提となります。スタッフが5人未満であれば医師国保を選択することが多いですが、医療法人設立のあとは協会けんぽから医師国保へ変更することはできません。

医師国保の加入は医師会への入会が前提となるため、郡市医師会・都道府県医師会・日本医師会の加入費用として、数百万円の費用が必要となります。

初期費用は高額ですが、医師国保は一般の国民健康保険とは異なり、保険料が収入に関係なく一定のため、保険診療メインで、医師会加入を前提とする診療科で開業する場合は、医師国保の加入を検討する方が多いように思います。

医師国保

医師国保は、協会けんぽとは違い、保険料がスタッフの報酬額(給与)に関わらず一定であることが大きなメリットといえます。

これは、月毎の出費の見通しがわかる、という点や、スタッフの給与が高い場合などに有利に働きます。特に院長の場合には高収入が見込まれるため、保険料の増加がない点は大きなメリットといえます。

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また、医師国保は扶養家族の数に応じて保険料負担が増加するため、扶養家族が少ない方にとってはメリットとなります。

一方のデメリットとしては、上記の通り、扶養家族の人数に応じて保険料負担が変わるため、扶養家族が多いと、負担が大きくなってしまいます。

また、医師が医師家族・スタッフへの診療・処方・注射などの治療行為をする「自家診療」は、原則として請求・給付がされません。この理由としては倫理的側面・社会的通念や医師国保の自主財源の確保が挙げられています。ただし、へき地など他の医療機関へのアクセスが難しい場合などは「緊急時・地域的な状況であれば条件付きで認める」という特例があります。

また、院長の扶養家族のみならず、スタッフの家族への配慮も必要です。スタッフの世帯のなかに国民健康保険に加入している人がいる場合、その人も含めて医師国保への移行が義務づけられるため、スタッフ当人以外の分も保険料の支払い義務が生じるのです。

これに加えて、傷病手当金・出産手当金などの支給はなく、育児休暇などでも保険料の免除が認められない、障害保険・障害年金にも影響が及ぼされることもあります。

このような事情から、医師国保を選択した場合、スタッフを雇用するときは家族の状況にも配慮をする必要が出てくるのです。

協会けんぽ

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常時5名以上のスタッフを雇用している場合、原則として協会けんぽへの加入義務があります。

事業拡大・医療法人設立を目指す方は、開業段階からある程度のスタッフ数を集め、協会けんぽへの加入を検討することも多いと思います。

最大のメリットは、医師国保では原則不可だった「自家診療」が可能であるため、スタッフへの福利厚生の一環として訴求できる、という点です。

また、協会けんぽはスタッフの報酬額により保険料が変わることも重要なポイントとなります。これはデメリットと表裏一体にはなりますが、スタッフに対しての保険料は安くなります。一方で、給与水準が高い院長の保険料では金額が上昇しますが、上限もあります。

これに加えて、保険料は扶養家族の人数に関係なく、給与水準で決まるため、スタッフの家族構成を考慮しなくてもよいことが、医師国保と比較すると、大きなメリットであるといえます。

また、傷病手当金・出産手当金・出産休暇や育児休暇においては保険料の免除があることも、ライフイベントを経ても長くスタッフに定着してもらうためのメリットとなります。

デメリットを挙げると、上記のようなことは、スタッフ側はメリットとなる反面、クリニック経営者側はデメリットとなる、という点です。保険料の半額はクリニック側が負担する義務があり、これは、年金・介護保険においても同様なシステムとなっています。

また、賞与支給時や昇給などによりスタッフへの支給額が増加した場合、協会けんぽの保険料は給与によって決定するため、保険料負担も増加することがあります。

どちらを選ぶかは、多角的に強化して検討を

ここまで、医師国保と協会けんぽのメリット、デメリットについて解説してきました。

先述した通り医療法人設立のあとは、協会けんぽから医師国保へ変更することはできませんが、医師国保への加入をしていたクリニックが、事業拡大などによって医療法人化する場合は、スタッフ数が増加しても医師国保の継続加入が認められます。

開業段階でも、医師国保にするのか、協会けんぽにするのかを選択することになりますが、法人化のタイミングでも、医師国保を継続するか、協会けんぽに切り替えるかを選ぶことになります。

いずれの場合も、メリット・デメリットや年間出費額、スタッフの家族の状況などをきちんと掌握した上で比較検討し、決断する必要があります。

また、医師国保の継続加入は「適用除外承認申請」を提出する必要がありますが、申請の期限は、医師国保の資格喪失から14日以内となっています。そのほかにも保険の切り替え時には煩雑な手続きが多くあるため、切り替えの際は注意してください。

株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭

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