コラム・インタビュー
クリニックオープン前...クリニック内の人事・採用のポイントは?...現役医師が解説
クリニック開業前の重要な業務として、オープニングスタッフの採用があります。医療サービスはそのスタッフによって、クリニックの雰囲気、提供するサービスの質が大きく変わります。しかし、多人数との面談を繰り返して判断力が鈍りがちになるなか、いかにして一定の基準を保つかが課題になります。ここでは、クリニック開院におけるスタッフの採用面接のポイントを説明していきます。
相性のよい人材を見抜くのは難しい
クリニックの採用面接では、技術や知識はもちろん、どのようにして人間性を見ればいいのか、苦心しているドクターは多いでしょう。
しかし、短時間で本来の人間性を見抜くことは不可能です。わかりやすい性格の方もいるかもしれませんが、そもそも短時間で、面接という緊張する環境下での情報のみで判断するのは困難なのです。
では、限られた時間内で、求職者のどの点を重視すべきなのでしょうか? それは、「ドクター自身を含め、クリニックとの相性がよさそうか、働く上での適性がありそうか」という点なのです。
求職者は予測される質問に対し、あらかじめ答えを考え、またHP等でクリニックの理念を確認し、面接に臨みます。もちろんクリニックだけでなく、一般的な求人面接でも行われていることでもありますが、人事や採用の素人であるドクターが、用意された答えから人間性を見抜くのは難しいのです。
また、面接では履歴書を必ず確認しますが、もし短期間で退職した経歴があった場合は、その点について質問すると思います。その際に後ろ暗い求職者は「嘘八百」を並べ立てることがあります。多くは、出産や子育て、介護、配偶者の転勤などを理由にしてごまかしますが、その情報の真偽を判断するのは容易ではありません。
人間性を見ようとするあまり、うっかり踏み込んだ質問をすれば、ハラスメントにもなりかねず、その点も注意が必要です。
まず、短期間の退職・転職について、ネガティブな理由を並べる方は採用を避けたほうがよいでしょう。「二度あることは三度ある」ではありませんが、入職してからも同じことを繰り返し、採用のコストや時間に見合わない結果となる可能性が高いからです。
注視すべきは求職者の「コミュニケーション能力」
人間性の評価は、コミュニケーション能力にあるといっても過言ではありません。職場では仕事と割り切って接する方も多いですが、ここで大事なのは「業務に対しての考え方、仕事への姿勢」が明確かどうか、ということです。
これらについて明確なビジョンがある方の場合、ある程度のコミュニケーション能力があれば、多少の難があっても、入職後のフォローで改善されることがあります。
評価基準を定め、そのときの気分や疲労感に左右されない判断を
クリニック開院時には、多数の方の面談を数日間で詰めて実施するため、求職者の人間性や実績・経験・考え方などが曖昧になる傾向があります。
そのため、自分の一時的な心情や疲労感で判断が鈍らないよう、評価基準をしっかりと定めておくようにします。また、あとから思い出せるよう、面接終了時には箇条書きでよいので、メモを残しておくとよいでしょう。
「接遇・コミュニケーション・第一印象」はクリニックのコンセプトに直結する
クリニックを受診される患者さん、とくに初診の患者さんは、不安と緊張のなかでクリニックの扉をくぐります。そのようななか、第一印象を決めるのが、スタッフの声かけや受け答えです。
もちろん、医師の接遇が悪いのは論外ですが、クリニックの経営基盤にはスタッフの接遇も深くかかわってきます。
また、自身のクリニックをどんなイメージにしたいかにより、求められる接遇レベルやスキル、接遇の質も変わります。
たとえば、都心のビルにあるなら会員制ホテルのように、下町や郊外なら気楽に入れる飲食店のように、クリニックのイメージ・コンセプトに適したスタッフを採用します。
また、同じエリアのクリニックでも、美容などの自由診療と、地域のプライマリケア中心のクリニックであれば、求められる接遇スキルは異なります。
それらを踏まえたうえで、採用する人材を検討しましょう。
「希望の勤務条件」はしっかり確認を!
勤務条件の確認の際には必ず、希望の勤務時間や勤務形態・勤務日数を尋ねるようにします。ワークライフバランスをどれほど重視しているかもそうですが、看護師の求職者の多くは女性であることから、介護・子育てなど、実生活との両立の点にも注意が必要です。
この確認を怠ると、勤務態度に問題が出る、急な休みや早退が多く業務が滞るなどのトラブルが起きやすくなります。
求職者側は面接を通過したいがために、多少無理な申告をする場合もあります。短時間の面接ではありますが、実際に勤務が可能な状況・環境か、明確にすることが重要です。
「経験と実績」の評価のポイント
履歴書に記載されていた職歴に関して、それぞれの職場でどのような役割をしてきたか、どのようなことを学んだかを、自分の言葉で明確に言える人であれば、職務技能の相違といったミスマッチが避けられます。
医療事務の場合はレセプト確認・請求ができるか、看護師の場合は手技のスキルやどれほどの経験を積んでいるかなど、内容を詳しく質問することをお勧めします。また、両者ともに前職の繁忙度における勤務状況を確認すると、仕事のスキルのレベルを判断しやすくなります。
また、業務の電子化の流れから、パソコンスキルを確認することも必要です。手書きの文字や図形を書いて、ワードなどのソフトで作成させてみてもよいでしょう。それにより「愛想はいいが仕事が遅い」「経験に見合った業務ができない」といった求職者をふるいにかけることができます。
開業するにあたり、看護師は標榜する診療科の経験者を、医療事務職員に関してはリーダー格となる人員を最低1~2名は確保したほうがよいでしょう。
しかし、経験者は有利に見えますが、履歴書に書かれた所属とそこでの経験が、必ずしもスキルとなっているとは限りません。
なにをしてきたか、なにができるか、なにができないのか、自身の経験をふまえて明白に言える人こそ、真に採用すべき人物だといえます。
株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭
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