コラム・インタビュー
雑な扱いは許されない! クリニック院長が知っておくべき「医療廃棄物」管理マニュアル
医療行為を行う中で必然的に発生する「医療廃棄物」ですが、処理には大掛かりな施設が必要なため、クリニックでは処理を専門業者に委託することになります。しかし、業者に任せておしまいではなく、クリニック側にも責任が伴います。もし無認可の業者に依頼するような重大なミスがあれば、重い処罰の対象となります。医師が解説します。
クリニックから出た「医療廃棄物」は処理業者へ委託することになるが...
医療機関から排出される医療廃棄物は、医療機関自ら適正に処理するか、医療廃棄物処理の許可を受けた、専門の処理業者に処理を委託する必要があります。
施設内で処理するには大掛かりな設備が必要になるため、クリニックの場合は、処理業者へ委託することになります。
廃棄物の処理を委託する際には、もちろん処理業者にも責任を負いますが、廃棄物を排出した医療機関の事業者にも排出事業者責任が生じ、感染性廃棄物が最終処分に至るまでの、5から6段階にもなる一連の行程における処理が適正に行われるための対応を行う必要があります。
このことは、
「事業者である医療機関(病院・クリニックともに)は、診療活動に伴い生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理する排出事業者責任がある」
として廃棄物処理法の第3条に記載されています。
もし、医療廃棄物処理の許可のない企業に委託してしまうと法律違反となり、処理業者の不適正処理や不法投棄等に巻き込まれたとしても、医療廃棄物の排出事業者側に法的措置や責任が生じます。
違反例を挙げると、2004年に、神奈川県横浜市内の産婦人科が、中絶した胎児を一般ゴミとして排出したとして逮捕・起訴されました。
また、別の医療機関では、産業廃棄物の処理の許可しか得ていない業者に、その業者が処理する許可を得ていなかった「感染性廃棄物」を委託したことを摘発され、逮捕・書類送検されました。この業者に委託された感染性廃棄物は、コンテナに放置されたままでした。
ほかにも、医療機関が極端に処理価格の安い業者に委託した例では、委託業者が廃棄物を下請けに出し、その後も二次請け、三次請けと渡っていった結果、最終的に不法投棄されていた、というような場合において、当初委託した医療機関が多大な原状回復費用の負担を負うことになった例もあります。
このような不適正処理が発覚すると、処理業者のみならず、排出事業者(クリニック)の名前が公表される場合も多く、社会的評価やクリニックのイメージ低下から、経営に大きな影響を生じる可能性があります。さらにそれだけでなく、罰金刑や懲役刑などの刑事責任を追及される場合もあります。
医療廃棄物は「感染性廃棄物」としての処理が必要に
医療関係機関などから排出される廃棄物には、医療行為によって発生した「医療廃棄物」と、会計処理や診療報酬請求・公費健診など事務業務によって発生した「事務系一般廃棄物」とに分かれます。
医療廃棄物とは、一般廃棄物・産業廃棄物には分類されないため、感染性廃棄物(特別管理廃棄物)として、処理が必要となる場合があります。
感染性廃棄物 黄(鋭利なもの)
注射針、針付注射器、メス、アンプル・ガイドワイヤー、輸血セット(針付)、輸液ルート(針付)、血液・体液・組織および病原微生物等の付着した可能性のある試験管(スピッツ)、ガラス片(医療用・研究用)
上記に分類される廃棄物は、耐貫通性のある丈夫な容器(大容量プラスチック)でまとめる必要があります。
感染性廃棄物 橙(固形物)
血液・体液(胸水、腹水等)で目に見えて汚染された器材、血液・体液(胸水、腹水等)が付着したシリンジ・ディスポ製品(手袋、ガーゼ等)、処置などで使用された器材等
紙オムツ(ウイルス性胃腸炎等が疑われる場合)
上記に分類される廃棄物は、丈夫なビニール袋を二重にして使用または堅牢な容器にまとめる必要があります。
感染性廃棄物 赤色(液状または泥状)
血液、体液、手術等で発生した廃液など
上記に分類される廃棄物は、密閉容器にまとめる必要があります。
非感染性廃棄物(プラスチック類)
血液等(血液・血清・胸水・腹水・創部浸出液・脳脊髄液)が明らかに付着していないもの、手袋・サージカルマスク・エプロン・栄養チューブなどのビニール製品、紙オムツ(特別な感染症をのぞく)、採尿バッグ・点滴バッグ
上記に分類され、専用の容器に梱包された医療廃棄物は、施設内の決められた、人目につかない保管場所から専用車輌に積込み、焼却処理場まで運搬されていきます。
感染性廃棄物の回収方法
とくに感染性廃棄物は、危険を防止するため、上記で分類されたバイオハザードマークの色ごとの梱包物を、産業廃棄物の収集の際に「マニフェスト」と呼ばれる産業廃棄物管理票とともに渡します。
「マニフェスト」は、回収から運搬・処理までの確認伝票で、A~Eまでの5枚つづりで構成されており、5年間の保存義務があります。近年では電子マニフェスト導入が進んでおり、データの確実性・透明性の担保、事務処理の効率化、年に1回実施される産業廃棄物管理票交付等状況報告書の報告が不要となるメリットがあります。
「マニフェスト」には、産業廃棄物の種類/数量/運搬業者名/処分業者名などの記載が必要となります。
医療廃棄物の処理業者選びの重要ポイント
医療廃棄物の処理業者の選定にも重要なポイントがあります。
許可の有無
産業廃棄物を取り扱う業者は、廃棄物処理法によって、該当する都道府県・政令市の許可が必要、と定められています。事業活動を行う地域の自治体の許可がないと、他の地域で許可を得ていても違反となります。
同時に、積み込みを行う場所と、廃棄物の搬入施設のある自治体の許可も取得しているかも確認する必要があります。
回収の時間帯や回収の頻度
クリニックが希望する回収時間や曜日、回収頻度、排出場所に対応できるかどうかも選定のポイントとなります。
処理フローの確認
医療廃棄物をどのように運搬し、処理していくか、全体のフローを細かく提示しない業者に委託した場合は、不法投棄につながりかねなません。
また、上述したマニフェストの作成・取り扱いに関しても確認が必要です。
収集車両の所有台数の確認
収集車両の所有が多ければ、廃棄物の収集・処理能力が高いと考えられます。
これに加えて、医療廃棄物以外のさまざまな廃棄物に対応してもらえる可能性も高くなります。
優良認定の有無の確認
優良認定は、都道府県・政令指定都市による、通常の許可基準より厳しい基準に適合した処理業者に与えられる認定です。
認定を受けるためには、遵法性、事業の透明性、環境配慮の取り組み、電子マニフェストシステムへの加入、経営状態の健全性などが審査されます。
優良認定である処理業者は、社会的にも高い信頼性が得られているため、業者選びの際の安心材料のひとつとなります。
株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭
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