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コラム・インタビュー

《アンガーマネジメント実践編》勤勉なドクターは要注意...「こうあるべき」という思考が及ぼす、自他への恐ろしい影響

危機管理・その他
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
アンガーマネジメントコンサルタント 新潟産業大学客員教授
安藤 俊介

多くの人が持てあましている、自分のなかの「怒り」。怒りが湧き上がる根本には、「こうするべき」「こうあるべき」といった、自分のなかの基準があります。そして、湧きおこった怒りは、その性質上、周囲にも大きな影響を及ぼすことになります。

怒りの特徴と、周囲に及ぼす影響

怒りには「上から下に流れる」「矛先を固定できない」そして「伝染する」といった特徴があり、それが人間関係において、さまざまなかたちで影を落とすことになります。

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怒りは「上から下に流れる」

怒りは、力の強い人から弱い人へ向かいます。職場なら、一般的には上司から部下の方向へ怒りが向かいます。つまり上司が部下を怒ることが多く見られます。

また、医院であれば、患者様が、自分のほうが医師や医療スタッフよりも力が強い(立場が上)と思えば、患者様は医師や医療スタッフへと怒りをぶつけやすくなります。これはカスタマーハラスメントにもつながるのですが、これについては、記事『カスタマーハラスメントから医師とスタッフの心を守る、具体的な方法』で詳しく解説していますので、ご参照ください。

怒りの「矛先を固定できない」

たとえば、家庭で持った怒りを職場で晴らしてしまう、といったことが該当します。出勤前に夫婦喧嘩をしてムシャクシャしていたところ、出勤後直後に部下の報告ミスが発覚し、夫婦喧嘩の怒りを部下にぶつける...といった行為につながるのです。

怒りによる「イライラは伝染する」

ある人がイライラしていたとします。すると、そのイライラはあっという間に伝染します。もし院内でだれかひとりがイライラしていると、ほかのスタッフまでイライラし始め、診療や運営に影響を及ぼすことになるのです。

ほかの記事でもご紹介しているように、「怒り」自体は悪いことではありません。しかし、やはり怒ることのマイナス面が、医院経営における大きな負の力になってしまうのは事実であり、この点には十分気をつけたいところです。

「こうあるべき」「こうするべき」...自身のなかにある基準を緩める

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記事『《アンガーマネジメント基本編》怒りに任せたふるまいに後悔...医師が知っておきたい「アンガーマネジメント」』では、怒りが生まれるしくみについて、ライターを例にご説明しましたが、次の方程式でも表すこともできます。

怒りの炎=『「べき」が裏切られる回数』×『マイナス感情・状態の大きさ』

上の式から、怒りの炎を無駄に燃え上がらせたくなければ、2つの方法があることがわかります。それは、「こうあるべき」「こうするべき」といった、自身のなかにある基準ともいえる「べき」が裏切られる回数を減らすこと、そして、「つらい、苦しい、悲しい、孤独、不安、寂しい」といった、マイナスの感情や、マイナスの状態を小さくすることです。

ここでは、『「べき」が裏切られる回数』を減らすことに注目しましょう。

具体的な例を挙げてみます。

社会人であれば、だれもが『時間は守る「べき」』だと考えるでしょう。ただし、その「べき」には、人によって程度の差があります。

「10時に集合ね」といわれたとき、あなたは何時何分に来るのが正解だと思うでしょうか? 10分前という人もいれば、ちょうどに来ればいい、あるいは多少の遅れは気にならないという人もいます。

人は同じ「べき」を信じていたとしても、その程度には大きな差があるのです。

さらにいえば「10分前に来るべき」と思う人と、「まあ、ピッタリくらいに来ればいい」と思う人では、「時間は守るべき」の「べき」に対する厳しさは違うといえます。前者のほうが厳しく、後者のほうが緩やかだといって差し支えないでしょう。

これは、どちらが正解・不正解ということではなく、単純に、ひとつの「べき」について、基準を厳しくしているかどうかです。

「10分前に来るべき」と思っている人は、「ピッタリくらいに来ればいい」と思っている人より、時間に対して厳しいことから、「べき」が裏切られる回数が増えていきます。なぜなら、5分前に来た人も、時間ぴったりに来た人も、受け入れることができないからです。

「べき」を緩めるということは、自身の持つ「べき」について、受け入れられる範囲を広げることです。「時間は守るべき」と考える場合、「10分前に来るべき」と思っている人が、「5分前でもいい」、さらには「遅刻さえしなければ時間ピッタリでもいいじゃないか」と思えるようになれば、「べき」が裏切られる回数を減らせます。

なかでも医師は、資格取得にも、実際の仕事内容にも並外れた勤勉さや緻密さが求められる、大変な仕事です。そんな厳しい仕事と向き合える方は、自分自身を律する力が強く、また、高い「べき」を持っている方も多いのではないでしょうか。そんな医師の方にこそ、「べき」について考えていただきたいと思います。

「絶対に譲れないこと」を明確にし、それ以外は緩めてみる

「べき」について上記のようにお話しすると、「では、なんでも許せということになるのではありませんか?」「それでは規律を守ることもできないし、あらゆることがルーズになってしまうのでは?」と危惧する人がいます。しかし、決してそうではありません。

なんでも受け入れるのではなく、「本当に譲れないこと」「受け入れてはいけないこと」を明確にし、それ以外の「べき」について緩める努力をするということです。

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人は非常に多くの「べき」を持っています。そのすべてについて厳しくしていたら、毎日のように「べき」が裏切られることになり、イライラするはめになります。

ネットの世界、とくにSNSの世界には「べき」を緩めることができない人たちがたくさんいて、常に怒って口論をしています。

怒りのエネルギーを別に向けたほうが、よほど生産的なことができるのではないでしょうか。

あなたにとって本当に緩めてはいけない「べき」とはなにか、そして、どの「べき」なら、緩めても自分や周囲のQOLを下げない、むしろ上げることになるのかについて、ぜひ考えてみてください。

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事 アンガーマネジメントコンサルタント
新潟産業大学客員教授 安藤 俊介

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