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コラム・インタビュー

カスタマーハラスメントから医師とスタッフの心を守る、具体的な方法

危機管理・その他
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
アンガーマネジメントコンサルタント 新潟産業大学客員教授
安藤 俊介

元気なときは耐えられることが、体調が悪いと我慢できず、爆発してしまう...。医療現場でしばしば起こるカスタマーハラスメントには、そのような背景が潜んでいます。どんな対処法が有効なのでしょうか。

応召義務のある医療現場...「カスハラ対応」も大変に

近年、ようやく「カスタマーハラスメント(=カスハラ)」の問題が社会的にも大きく取り上げられるようになりました。厚生労働省はカスハラを次のように説明しています。

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「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。」

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

どこの業界も「モンスタークレーマー」には頭を悩ませています。クレーム対応にスタッフの労力が取られるばかりか、働く意欲を著しく減退させることも問題となっており、医療現場においても「モンスターペイシェント」への対応には、以前より苦慮してきたのではないかと思います。

じつは、この問題にいち早く対応したのが旅館・ホテル業界でした。令和5年12月13日に旅館業法が改正され、カスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができるようになりました。

医療現場には応召義務がありますので、患者さんを拒否するようなことは簡単にはできませんが、あまりに酷い行為が続き、医療現場の機能を大きく損なうなら、対応策が必要です。

医療現場において接遇意識を高く持つことはとても尊いことだとは思いますが、そのことで医療スタッフが疲弊するようなことがあっては、適切な医療行為の提供に支障をきたしかねません。そうなってしまえば、本末転倒と言うほかありません。

病気やケガによる苦しみ...「患者さんの事情」は理解できるが

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とはいえ、患者さんからきつい言葉を言われることは現実に起こりえます。

患者さんは体調が悪い、不安といった「マイナス状態」をたくさん抱えています。つまり、怒りの炎を燃え上がらせる要素をたくさん抱えているということです(『《アンガーマネジメント基本編》怒りに任せたふるまいに後悔...医師が知っておきたい「アンガーマネジメント」』参照)。

患者さんは健康なときにくらべると、怒りの炎が大きく燃え上がりやすい状態であり、つい余計なこと、きついことをいってしまいがちです。

そんなときにも、医師や看護師の方々が「患者さんではなく、病気がいわせているのです」といって受け止めているシーンもあり、医療現場の皆さまには頭の下がる思いです。

そうはいっても、医師や看護師、現場のスタッフも生身の人間です。患者さんとのコミュニケーションで傷ついたり、落ち込んだりしてしまうこともあるしょう。

医療従事者の心を守る「分けて聞く」という方法

では、どうすれば自分の心へのダメージを軽減できるのでしょうか? それには、コミュニケーションにコツがあるのです。

それは「聞く必要のあること」と「聞く必要のないこと」、そして「した方がよいこと」と「しなくてよいこと」を分けて考えることです。

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たとえば、患者さんから「前の病院では丁寧に説明してくれたのに、あなたの病院の説明の仕方は不親切だ!」と怒鳴られたとします。

ここで聞かなければいけないことは「事実」です。逆に聞かなくていいことは「事実以外」です。

また、した方がよいことは「気持ちに対する共感」です。逆にしなくてよいことは「不要な謝罪や釈明」です。

まず、「丁寧・親切」であるかどうかは人の感じ方の問題なので、こちらとしては丁寧、親切だと思っていても、相手はそう思わないことはあり得ます。したがって、人によって判断が変わるようなものは、基本的にその部分については真に受ける必要はありません。

ここで、言葉を真に受けてしまうと「自分は丁寧・親切な対応ができていないのだ」と落ち込んでしまいます。

説明をしていることは「事実」なので、説明が上手に伝わっていない点については聞く必要があるといえますから、なにかしらの対応が必要なことだと受け止めればよいのです。

一方、こちらの意図はともかく、相手が気分を害していることは確かなので、気分を害しているということについて「お気を悪くさせてすみません」といった共感は、示したほうがいいといえます。

ただし、「丁寧に親切に説明していなくてすみません」といった、不要な謝罪はしなくてよいのです。「こちらは丁寧・親切に説明したつもりだが、相手はそうは受け止めていない。では、どのように説明すれば十分になるのか、方法を考えて対応しよう」という理解だけに留めておくよう意識することです。

医療従事者の方々は、共感力の高い優しい方が多いため、患者さんに寄り添おうとする意識が働きがちです。それは決して悪いことではありませんが、だからこそ「聞かなくてよいこと」「しなくてよいこと」をしてしまい、自分自身を苦しめることになるのです。

聞く必要のあることは聞いても、必要のないことは聞かない。した方がよいことは実行しても、そうでないことはしない。これらの違いを明確にして、日々の業務のなかでも意識していきましょう。それが心を軽くして働くコツなのです。

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事 アンガーマネジメントコンサルタント 
新潟産業大学客員教授 安藤 俊介

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