コラム・インタビュー
新規開業医のための「医師会」最大活用術【現役院長が助言】

開業の過程で必ず遭遇する「医師会に入るべきか否か」という問題。筆者としては、どの地域で開業をするかを決めた時点から、医師会とのつながりを持っておくことをお勧めしますが、同時にデメリットになる点もあるので要注意です。今回は、医師会への加入のメリットと注意点について解説します。
医師会には入会しておいたほうが無難

自費診療メインでない限り、認知性向上や開業初期の資金繰り、リスクヘッジの観点から「医師会には入会しておいたほうが無難」というのが、現役の医師である筆者の意見です。
医師会への加入においては、開業予定地の医師会(全国900近くある地域の医師会)のホームページ内の「〇〇市で新規開業を検討している医師へ」という項目から、なければ、医師会の新規開業担当理事に問い合わせてみることをお勧めします。
医師会のホームページや、問い合わせの返答に「志を同じくする仲間が増えることは歓迎しますが、当地区では過飽和状態となり適性医療が行えず、経営が回せず撤退を余儀なくされる可能性もあります」といった記載がされている場合、競合地区であることを示しているといえます。
反対に医師会担当理事などからの返信が「ぜひともこの地区には△△科のニーズが高い」という好反応であれば、患者ニーズが高い地域と認識できます。これに加え、過去数年間の人口推移や1診療所あたりの受診人数の統計などの情報収集が重要となります。
コンサルタントや不動産業者の営業の話だけを鵜呑みにせず、現地で、曜日と時刻を変えて視察をおこない、近隣の他院の状況や人の流れ、駐車場の出入りなども毎回最低30分は現地で確認することが必要です。こういった観点では、客観的な医師会の意見も検証する価値はあります。
医師会への加入で得られる「4つのメリット」
さて、実際に医師会に加入するにあたり、開業立地決定の前後から所在する医師会に連絡をしたほうが、会長などの役員や、周辺医療機関からの評価が高くなり、診療所間や病院・診療所間の連携(紹介・逆紹介)もスムーズになります。このほかにも以下のようなメリットがあります。
①診療報酬改定のキーポイントが学べる
各医師会には社会保険担当の理事の医師がおり、2年に1回の診療報酬の改定や、ご存じの通り、COVID-19感染時での度重なる診療報酬の変更などの情報が得られます。とくに大幅な変更があった令和6年の改定では、加入していた医師にとっては有用な情報が得られる情報源になったと推察されます。

②医療知識をアップデートできる
医師会への加入により、各市町村や都道府県の医師会が開催する講習会、研修会にも参加が可能になります。
とくに、内科系診療科では「地域包括診療加算」を算定するための講習会への参加、日本臨床内科医会の単位となる「日本医師会の生涯学習単位」の取得、産業医講習会などでは便宜が図られます。
筆者の場合は、開催頻度が稀であり、枠も限られる「認知症サポート医養成講座」に会長の推薦を受けて参加・単位を取得し、認知症診療において診療報酬上のメリットを享受しました。
また、学術活動を行う医師には、約6万8,000点の医学関連図書や国内外の雑誌を備えており、貸し出し・文献調査、複写サービスを利用できる日本医師会会員専用の図書館が利用できます。
③検診や予防接種などの医師会受託事業への参加
小児科・内科での公費予防接種事業、乳児検診や特定健診・高齢者健診、各種がん検診などは、医師会加入により対応ができます。
開業初期では受診患者数が伸び悩むときにも、公費診療として収入を確保することが可能となります。
また、地方自治体より紙媒体やホームページによりクリニックの存在が明確になるため、受診の契機ともなります。
④日本医師会の賠償責任保険への加入
医療事故に備える保険として、日本医師会が運営する医師賠償責任保険があります。医療事故による訴訟などが起きた際には、地域医師会のバックアップの他、保険会社、必要に応じた弁護士対応もあります。
1事故につき1億円(免責金額100万円)、保険期間中の支払い限度額も3億円です。近年では医療訴訟の賠償金額が1億円を超える案件もあるため、医師会費に包括される内容であることもメリットです。
「高額費用負担」「業務増大」「健康保険加入」にまつわるデメリットも
一方、医師会への加入にはデメリットもあります。前述のメリットと比較したうえで加入するかどうかを判断しましょう。
医師会に加入するデメリットは次の通りです。
①高額な入会金が必要
地区医師会(政令指定都市では市と区の2回)・都道府県医師会・日本医師会のそれぞれで入会金や年会費が必要です。
一般的には総額で200万円から500万円と違いがありますが、こちらの入会での資金繰りが困難な場合、各都道府県にある「医師信用組合」において開業ファーストステップローンとして医師会入会を目的とした融資もあります。
②診療以外の業務負担が増える
各医師会は、地方自治体より休日診療所を委託されているため、休日夜間診療所の当番、所属する地区の保育園や学校医の業務、地域包括支援センターへの市民講座、介護保険認定審査委員会の出席などもあります。
③一般の国民健康保険に加入できない
多くの都道府県では、医師会員になると、医師会員のみが加入できる「医師国保」に加入することになります。「医師国保」は保険料が収入によって変動せず、保険料が一定のため、開業初期など給与が少ない場合は、一般の国民健康保険のほうが保険料が安い場合もあります。
医師会への入会はメリット・デメリットを見極めて
医師会は、開業した医師の営業を阻害するものではなく、地域医療のバランスをとる、医療機関間のスムーズな連携、地域住民へのクリニック会員のアピールといった公益が目的です。
入会する場合は、会長あるいは開業担当理事の面談や、理事会の挨拶などローカルルールがありますので、早めに相談をされることをお勧めします。
とはいえ、開業後に、前述の地域包括診療加算の施設基準を満たすため(初診時に機能強化加算80点の算定目的)で入会した医師もいます。メリット・デメリットをよく比較したうえで、加入を検討しましょう。
株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭
監修者 株式会社コスモス薬品
本社は福岡県福岡市博多区。東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。
2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33期連続増収。
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