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〈院長向け〉社会保険と税金...「103万円の壁」是正で今年の働き方はどうなる!?【社労士が解説】

採用・教育・労務
社会保険労務士法人WILL 代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢
〈院長向け〉社会保険と税金...「103万円の壁」是正で今年の働き方はどうなる!?【社労士が解説】

「〈扶養内で働きたい〉というパートのスタッフは、どの程度勤務してもらえるのでしょう?」これは、開業医の先生から多く寄せられる質問です。医療業界では女性スタッフが多く、配偶者の扶養に入って働く方は珍しくありません。そのため、クリニックの経営者は「扶養の範囲で働きたい」という要望を避けては通れないでしょう。院長が知っておくべき制度の知識について見ていきましょう。

「扶養の範囲」とは?...「税金の壁」と「社会保険の壁」は別物

最初に押さえておきたいのが、「扶養の範囲」という言葉が意味する内容についてです。実は、人によって異なります。

いわゆる「扶養」には「税金の扶養」と「社会保険の扶養」の2種類があり、それぞれ適用される収入基準が違います。

  • 税金の扶養(所得税): 「103万円の壁」「150万円の壁」などがよく知られています。
  • 社会保険の扶養(健康保険・年金): 原則として年収130万円未満が目安です。

上記の2つはまったく別の制度ですが、混同されがちなので要注意です。経営者がこの違いを理解できないと、スタッフに正確な説明ができず、働ける範囲内で最大限働いてもらうことができなくなるからです。

注目される「103万円の壁」改正とは?

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2024年の年末にかけて、報道等で取り上げられて話題を呼んだのが「103万円の壁への対応」です。

「103万円の壁」とは、パートやアルバイトで働く被扶養者が年間の給与収入103万円以下であれば、所得税がかからず、扶養に入れている側の扶養控除も最大限に受けられるという制度です。

ただし配偶者に対しては、扶養控除と別に「配偶者控除」「配偶者特別控除」という控除が存在します。103万円を超えると本人に所得税が発生しますが、年間給与収入150万円までは、扶養者が受けられる控除額は変わりません。
※ 扶養に入れている側の収入に一定の条件が有ります。

税法上、その年の収入が少しでも基準を超えると、自分にも扶養者にも所得税がかかり、控除の一部が受けられなくなります。そのため「働き損」となるケースがあるとして、長年「壁」と呼ばれてきました。

改正内容の概要

2025年度(令和7年度)税制改正により、103万円の壁を160万円まで引き上げられることとなりました。

近年は最低賃金の上昇が著しく、扶養内でいままでと同じ時間働く人の場合、11月ごろになるとこの壁を意識して働き控えをするため、アルバイトやパートが多い事業所で深刻な人手不足が発生していました。

今回の改正では、配偶者に加え、パートや学生アルバイトも同様に非課税の範囲が160万円まで引き上がります。そのため、ある程度働く時間を増やすことが可能になるので、就業調整をしていた女性の社会進出や、学生の収入事情の解消が期待できるといえます。

経営者側も、160万円の壁になることで労働力不足の軽減が期待できます。

社労士が注目するのは「社会保険の壁」130万円

税金の壁が引き上げられることで注目を集めそうなのが、社会保険の壁(130万円)です。

スタッフにとっては、所得税の負担より社会保険料のほうが負担が重くなるため、インパクトが大きいものの、社会保険料の負担は労使折半です。そのため、経営者である院長にとっても気にせずにはいられない問題だといえます。

社会保険の扶養とは?

配偶者(多くは会社員)の扶養に入っているスタッフが「年収130万円未満」であれば、健康保険や年金に自分で加入する必要がなく、保険料負担はゼロになります。

しかし、130万円を超えると自ら保険制度※に加入しなければならず、健康保険と年金の保険料が自己負担となります。

これが、スタッフの「働きたくても働けない」理由のひとつとなっているのです。

また、スタッフが社会保険に加入する場合、経営者側にも保険料の半額負担が生じます。そのため、クリニックの経営にとっても無視できないコスト増要因となります。

社会保険が適用されない小規模な事業所なら国民健康保険・国民年金への加入が、社会保険適用事業所なら、加入要件を満たした場合に健康保険と厚生年金に加入することになります。

パートスタッフも社会保険の対象に? 社会保険加入の要件は「時間数」

130万円と同様に重要なのが、スタッフ自身の社会保険への加入の要件です。

社会保険が適用されている事業所は、任意で社会保険加入の有無を決めることはできません。その事業所の常勤スタッフの4分の3以上の時間勤務するスタッフは、年収が130万円未満でも社会保険に加入する必要があります。

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つまり、社会保険上の扶養者であり続けるには、収入130万円未満で、かつ、自身の労働時間が常勤スタッフの4分の3未満であるという2つの条件を満たさなければならないのです。

現在、社会保険加入者が50人を超える事業所は「常勤の4分の3以上」という時間数の条件が週20時間以上となっています。

「うちは小規模だから関係ない」と思うかもしれませんが、社会保障制度の水準を維持するため、将来的に小規模な法人や個人事業へと段階的に拡大される可能性があります。

経営者としての対応...スタッフの"壁"との向き合い方

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まず、スタッフが「扶養内で働きたい」と言ってきた際には、それが税金の扶養のことなのか、社会保険の扶養のことなのかを確認しましょう。

「夫の会社で扶養から外れると困る」など、社会保険上の扶養を意味している場合は、年収130万円未満である必要があります。中途半端に働いて損をするという誤解をしている人も多いため、丁寧な説明が重要です。

壁の存在を考慮しながら、労働時間やシフトに柔軟性を持たせることも大切です。

たとえば、繁忙期だけ収入が増えてしまわないように、あらかじめ年間での労働時間を見通してスケジュールを調整しておくと、スタッフにとっても安心です。

一方で、「どうせ壁を超えてしまうなら、しっかり働いて社会保険にも加入したい」というスタッフもいます。そのような方には、保険料はかかるものの、将来の年金が増えるメリットなども説明し、安心して長く働いてもらえるよう配慮することがポイントです。

「壁」への理解がクリニック経営の安定につながる

今回の「103万円の壁」是正措置により、一部のスタッフにとっては働き方の幅が広がったように見えます。しかし、税法上の壁が改善されたとしても、社会保険の加入義務が発生する収入基準(130万円の壁)や労働時間数の条件は依然として存在します。

経営者としては、これらの壁の違いを正しく理解し、スタッフと丁寧に話し合うことが、安定した人材確保と円滑なクリニック運営につながります。

社労士の立場からお伝えしたいのは、「壁は怖がるものではなく、正しく知って対策すれば乗り越えられるもの」です。

皆さまにとって、今後のスタッフマネジメントの参考になれば幸いです。

社会保険労務士法人WILL
代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢

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監修者

株式会社コスモス薬品

本社を福岡県福岡市に置く東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。

2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33年連続増収。
日本版顧客満足度指数の「ドラッグストア」において14年連続第1位を獲得。

クリニックの開業サポートにも注力し、2024年8月現在、開業物件店舗数は約350店舗。 集患に有利なドラッグストア併設型物件を全国各地で多数取り扱っている。

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