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クリニック開業お役立ちコラム
【実例から学ぶ】クリニックで起こりがちな「未払い賃金問題」の留意点と対処法...社労士が解説
診療に全力を注ぐあまり、スタッフの労務管理は手薄になりがち...。そんなクリニックの院長は少なくありません。しかし「賃金の支払い」は、労働法の基本であり、スタッフとの信頼関係を支える最も大切な土台です。「うちはちゃんと給料を払っている」と自負していても、法的に見ると"実は未払い"というケースもあるため、注意が必要です。この記事では、実際にあったトラブル事例を交えて、どこに落とし穴があるのか、そしてどうすれば未払い賃金のリスクを避けられるのかを、社会保険労務士の視点から解説します。
未払い賃金が引き起こすもの──金銭トラブルだけでは済まない現実
「スタッフが突然辞めて内容証明を送ってきた」「労働基準監督署から調査の連絡が来た」...。このようなトラブルは、正しい労働時間の集計方法や賃金計算の仕組みを知らないために起こっているケースがほとんどです。
賃金の未払いが発覚すると、経営者は法律上、原則として過去5年分(当分の間は3年分)にさかのぼって支払いを求められることになります。これに加えて、法律上の割増賃金や有給期間中の給与などに関しては、未払いと同額の「付加金」というペナルティを命じられることもあります。
そしてなにより厄介なのは、労基署からの是正勧告や、SNSでの発信などを通じてクリニックの信用が損なわれることです。医療の現場は信頼で成り立っています。給与トラブルで「人が集まらない」「スタッフがすぐ辞めてしまう」などの連鎖を引き起こせば、経営にも大きな影響を及ぼします。
「知らなかった」ではすまされない労働基準法
「労働基準法」は、労働者の最低限の権利を守るための法律です。立場的に弱い労働者を守るため、法違反には罰則が設けられています。たとえ雇う側が「うちのやり方は業界では普通」と思っていても、それが法の基準を満たしていなければ、厳しい処分は避けられません。
たとえば、スタッフが1日8時間を超えるか、週40時間を超えて働いた場合には、通常の賃金の25%以上の割増をつけて「時間外労働分」を支払わなければなりません。また、深夜帯(午後10時から午前5時)に及ぶ労働も同様の割増率をかけて支払いが必要です。クリニックで決めた休診日(法定休日)などに働かせる場合も、特別な取り扱いが必要になることがあります。
よく「自分が研修医のころは残業代なんてなかった」と口にする院長先生がいらっしゃいますが、その考えは非常に危険です。労働契約上の時間を超えて働かせた場合は、追加で賃金の支払いが必要ですし、実際の労働時間が法定の枠を超えれば、割増賃金を別途支払う義務が生じます。
さらに、医療機関では変形労働時間制を取り入れているところもありますが、この制度を使うには、就業規則への記載や、労使間での合意、シフトの事前告知など所定の手続きが必要です。適切な手順を踏まずに運用した場合は違法扱いとなり、結果として未払い賃金の支払いを求められることになります。
実例①「着替え時間は労働時間に入らない」と考えていた

ある内科クリニックでは、スタッフが白衣に着替えてからタイムカードを押す運用がされていました。「業務前の着替え時間は労働時間には含まれない」という認識だったようです。
ところが、あるとき退職したスタッフが「着替えも仕事の一部だ」と主張し、未払い賃金の支払いを求めてきたのです。調査が入った結果、労基署の判断は「白衣は業務に必要不可欠な制服であり、着替えも勤務の一環。よってその時間も労働時間とみなす」というものでした。
このクリニックでは、スタッフ1人あたり1日5分程度の着替え時間がありました。月に20日出勤とすれば、年間で約20時間。時給換算して2万円強の未払いが発生していたことになります。スタッフが複数いれば、その金額はさらに膨らみます。
「たった5分」でも、毎日積み重なれば影響は決して小さくありません。「着替えの時間も業務に準ずる時間」との認識のうえ、タイムカードの打刻ルールを見直す、着替えの時間の扱いを就業規則に明記するなど、初期の段階から丁寧に整備しておくことが肝要です。
実例②「割増賃金の計算方法が間違っていた」
別の小児科クリニックでは、月給25万円の常勤スタッフに対して、1時間あたりの賃金を「25万円÷160時間(1日8時間×20日)」と計算し、残業手当を支払っていました。
しかし、残業手当を正しく計算するには、「基本給+各種手当」などを含めた総支給額をベースに、月の所定労働時間で割る必要があります。さらには、法定労働時間を超えた時間にはその単価に1.25倍の割増率をかける必要があります。

このクリニックでは、主任手当や資格手当を支給していたにも関わらず、それらを含めず基本給だけで単価を算出していたため、最終的に過少支給と認定されました。もちろん、悪意はありません。しかし、「正しい計算方法を知らなかった」という理由で責任が免除されることはありません。
このようなミスは、給与計算ソフトに頼りきっていたり、勤怠の集計と給与処理を別々に行っていたりすることで起こりがちです。給与計算の仕組みを理解する専門家と連携してチェック体制を整えることが、こうしたリスクを避ける大切な一歩となります。
「お金の問題」ではなく「信頼の問題」

このような賃金トラブルを「ちょっとした金銭の問題」などと軽く考えてはいけません。給与はスタッフの生活を支える糧であるだけでなく、就労意欲に大きな影響を及ぼします。「働きが正当に評価されている」と思える職場こそ、安心して長く働ける職場だといえます。
開業直後や繁忙期は、労務管理に手が回らないこともあるかもしれません。しかし、だからこそ最初の仕組み作りが大切です。「この計算で大丈夫だろう」「この時間は労働時間ではないだろう」と、感覚的に運用していると、いつか思わぬ形で跳ね返ってくるリスクがあります。
未払いを防ぐ第一歩
未払い賃金問題は、事後対応よりも予防のほうが圧倒的に簡単です。就業規則や雇用契約書の整備、タイムカードの運用方法、割増賃金の正しい計算...。どれも手間に思えるかもしれませんが、これらの基礎を整えることで、スタッフとの信頼関係も強固なものになります。
クリニック経営の成功を左右するのは、診療だけではありません。盤石な組織づくりも決して外すことのできない重要事項です。信頼されるクリニックをつくるために、ぜひ労務管理にも意識を向けてみてください。
社会保険労務士法人WILL
代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢
監修者
株式会社コスモス薬品
本社を福岡県福岡市に置く東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。
2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33年連続増収。
日本版顧客満足度指数の「ドラッグストア」において14年連続第1位を獲得。
クリニックの開業サポートにも注力し、2024年8月現在、開業物件店舗数は約350店舗。 集患に有利なドラッグストア併設型物件を全国各地で多数取り扱っている。
弊社が開業支援をさせていただきます
コスモス薬品が運営するドラッグストアは、日常生活に必要なものが何でも揃う生活の拠点となるお店。その地域で便利に安心して暮すために欠かせない、電気や水道のような社会インフラであるお店。
そこに専門性が高いクリニックが加われば、さらに「豊かな生活」を提供することができます。
コスモス薬品は、地域医療の担い手である開業医を全力でサポートしてまいります。

