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クリニック開業お役立ちコラム
「院長、電話です」「えっ!?」退職代行業者からまさかの〈退職連絡〉...現場スタッフの職務放棄に、法的措置はとれるのか?
近年、退職代行業者にまつわるマスコミ報道が増えています。実際に業者からの連絡を受けたクリニックの院長もいらっしゃるかもしれません。労働者側には便利なサービスでも、経営者側は頭を抱えたくなるというのが本音でしょう。本記事では、退職代行業者による一方的な退職連絡への対応・対策について、法的な観点から解説します。
退職代行業者から連絡が来たらどうすべき?
ある日突然、突然退職代行業者から連絡が来た場合、いったいどのように対応すればいいのでしょうか?
連絡を受けた際には、まず人事担当者または決裁権を持つオーナーが、代行業者の話を聞くことが重要です。その際のアドバイスとして、代行業者の法的立場の確認や、交渉を行わないといった行動が挙げられていることもありますが、いきなりの電話でそこまで対応することは容易ではありません。

スタッフから電話を取り次がれた経営者が、最低限行うべきことは下記の3点です。
①電話をかけてきた代行業者の名前の把握
②退職代行の依頼者(社員)の名前と、従業員の言い分の把握
③今後の窓口をどうすべきかの確認
逆にいうと、この程度のヒアリングと、「確認して連絡します」と回答するぐらいが関の山でしょう。
必ず確認・把握しておきたい「3つの事項」
まずは、あとからホームページ等で確認が取れるように、電話の発信元である代行業者がどこであるか確認する必要があります(上記①)。代行業者が弁護士なのか、民間の退職代行業者なのかによって、行える職務の範囲も変わるため、これは必ず確認を取りましょう。
次に、退職を求める社員とその言い分の確認も、非常に基本的な聞いておくべき事項となります(上記②)。後述するように、代行業者の介入があった場合、必要な手続きのタイムリミットがあるものの、従業員本人への接触が極めてむずかしくなることから、何度も意向を確認することができなくなります。そのため、最初の連絡のタイミングを逃さないことが重要です。
最後に、今後の窓口についてです(上記③)。シフトの引き継ぎや貸与品の返還等、退職に伴う事務連絡を行う必要が生じます。この連絡を代行業者と行えばいいのか、本人と直接行えばいいのかという点は、トラブルの拡大を防ぐ意味でも明確にしておく必要があります。
行うべき手続きの確認
代行業者から連絡があった場合、退職に向けて行う手続きの確認が必要になります。この手続きは、クリニックと職員との契約や雇用形態等によって変わるため、社労士と相談のうえで手続きを進める必要がありますが、とくに注意すべき点は以下の2点です。
1.本人の退職意思が固いことの確認
第三者による嫌がらせ行為の可能性もあることから、社員本人の退職意思があることを確認する必要があります。本人への連絡であればメール、代行業者への連絡であれば委任状や身分証の写しの交付を求め、退職を求めているのがその社員であることを確認してください。
2.契約終了時期への留意
正社員による退職の場合、解約の申入れから2週間によって雇用契約は終了するとされています(民法627条)。いうまでもなく、正社員の退職手続きをすべて完了させるための時間としては十分ではありませんので、雇用契約書を確認のうえ、契約の終了時期にも気を配る必要があります。
患者や他のスタッフへの影響
また、突然の退職によって患者様やほかのスタッフに対して生じる影響を最小限にとどめる措置をとることも必要です。
具体的に考えられる対策としては、
①退職者が出たことの他の職員への周知と、退職者のシフト・業務の把握
②既存職員による退職者のリカバリーが可能かどうかの検討と、当該社員への説明
③クリニック運営に支障が出るようであれば、早急な採用活動の開始
といったものが考えられるでしょう。

クリニックにとっては、このような形で退職者が出ること自体ショッキングではありますが、その結果、ほかの職員に業務の負担が集中して連鎖的に退職が起こり、クリニック全体の運営に大きな影響を与えることは、特に回避すべきことだといえます。
とくに、患者様の対応が滞る・不十分になることでクリニックの信用に傷がつけば、クリニックが負うダメージは多大です。そのためにも、しっかりとした対応を行うことが重要です。
退職者に対する法的措置

他方、クリニックとしては、突然退職して運営に支障をきたした退職者に対し、なんらかの請求を行いたいと考えることは十分に想定できます。
1.退職に対する損害賠償請求
まず、クリニックを突然退職したことで業務に大きな損害が生じた場合、退職者に対して損害賠償請求をすることが考えられます。
例としては、
●業務に滞りが発生し、患者からのクレーム対応を強いられた
●代替人材の緊急的な確保のため、高額なコストが発生した
といったものが典型例として挙げられるでしょう。
ただし、このような請求は法律的には筋が通っていても、実際に裁判で争うことはかなり難しいといえます。
というのも、実際に裁判になった場合、
●退職「によって」生じた損害であるという因果関係
●「損害」といえる金額の計算
これらについて、クリニック側でしっかりとした証拠をもって主張・立証する必要がありますが、これらの証拠収集は容易ではありません。そのため、訴訟提起が現実的な方法かどうかは慎重に見極める必要があります。
2.患者の引き抜き・近隣での開業
さらに悪質な例としては、クリニックを退職したにもかかわらず、近隣でクリニックの開業または競合他社へ転職し、既存の患者を引き抜くといったことも想定されます。
このような場合、悪質性が非常に高ければ損害賠償請求を検討する必要もありますが、退職者は職業選択の自由(憲法22条1項)が保障されていることもあり、容易にいかないことも知っておくべきでしょう。
3.退職トラブルを防ぐための対策
上記のように、法的措置がむずかしいなら、どのように対応すべきでしょうか? 法的な観点から回答するなら、やはり、事前に雇用契約書等の整備を行い、リスク管理を行うことが非常に重要だという点に尽きるでしょう。
●退職に関する手続きの規定を整備する
●競業に関する制限を雇用契約書段階で同意する
●合理的な範囲でペナルティを科すことも検討する
といった内容を事前に定めることで、突然の退職を防ぐだけでなく、トラブル時の法的対応がスムーズになります。
また、そもそも退職者を出さないための、職場環境の改善も重要な対策の一つです。
まとめ
近年広がっている退職代行サービスですが、クリニックからすれば、退職者本人と連絡が取れず、非常に対応に苦慮する相手であるといえます。
もし退職代行業者から連絡を受けた場合、早期に的確な措置を打つことが重要であると同時に、事実上法的措置が取りにくいことも知っておくべきだといえます。そのため、普段からのリスク管理・書式整備にも十分に目を光らせることが重要です。
弁護士法人山村法律事務所
弁護士 寺田健郎
監修者
株式会社コスモス薬品
本社を福岡県福岡市に置く東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。
2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33年連続増収。
日本版顧客満足度指数の「ドラッグストア」において14年連続第1位を獲得。
クリニックの開業サポートにも注力し、2024年8月現在、開業物件店舗数は約350店舗。 集患に有利なドラッグストア併設型物件を全国各地で多数取り扱っている。
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