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「カスハラ対策」義務化へ...医療現場でいまから準備・着手すべき対応策 社労士が解説

採用・教育・労務
社会保険労務士法人WILL 代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢
「カスハラ対策」義務化へ...医療現場でいまから準備・着手すべき対応策 社労士が解説

丁寧な医療サービスを提供しているにもかかわらず、患者側から理不尽な言動を受ける医療従事者は少なくありません。ときには診察室で怒鳴られたり、受付で執拗な謝罪を求められたりするなど、明らかに「行き過ぎたクレーム」が日常的に発生しているケースもあります。ここでは、社労士の視点から、法制化の背景、放置するリスク、いまから取り組める実践的な対応策について見ていきます。

2026年度中にも「企業のカスハラ対策」義務化へ

患者や家族からの不当な言動は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれ、近年では接客業や医療・福祉の現場における深刻な問題として、全国的に注目が集まっています。そしてついに、2026年度中にも企業のカスハラ対策の義務化が進められる方針が示されました。つまり、事業主には「自社の従業員を理不尽な顧客対応から守るための環境整備」が、法的に求められる時代へと突入しようとしているのです。

とくにクリニックなどの医療機関は、患者との接点が密であることからカスハラのリスクが高く、開業直後の段階から「職場を守る」視点での備えが重要になります。

法制化される「カスハラ」―その定義と背景

カスタマーハラスメントとは、厚生労働省によると「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。

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たとえば、診療の順番を巡って怒鳴る、無理な要求を繰り返す、個人の人格を否定する発言をするなどがこれにあたります。医療機関では「患者=顧客」という構図により、対応の優先度や言動のボーダーが曖昧になりがちですが、あくまで相手がだれであっても、労働者に対する人権や尊厳は守られるべきです。

とくに医療現場でのカスハラは「ペイシェントハラスメント」とも呼ばれ、診察の順番に不満をもった患者が「ふざけるな」「いますぐ診ろ」などと怒鳴り声を上げる、看護師が点滴や処置を行う際に「下手だな」「お前みたいなのが医療現場にいること自体が問題だ」と罵声を浴びせられるなどがこれにあたります。

こういった言動は、単なる苦情の域を超えた職場環境の侵害であり、対応を誤ると職員の離職や医療の質の低下を招きかねません。

このような問題がクローズアップされるきっかけとなったのは、2020年のパワハラ防止法(労働施策総合推進法)施行です。当初は社内の上司・部下の関係に限定されていましたが、現在では「顧客等からのハラスメント」にも焦点が当てられるようになり、厚労省が2024年末に発表した指針案では、使用者にカスハラ防止措置の実施を求める方針が明確に打ち出されました。

政府は2026年度を目標にカスハラ防止措置の義務化を目指しており、事業所の大小を問わず、院長や経営者がスタッフを守るための具体的な措置を講じる義務が生じることになります。

放置するとどうなる?安全配慮義務違反のリスク

カスハラ対策を怠る最大のリスクは、使用者としての法的責任が問われる可能性があることです。労働契約法第5条では、「使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務」を負っていると定められています。これは、職場における安全面の整備だけでなく、精神的な安全、すなわち「安心して働ける環境」も含まれます。

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たとえば、ある病院では、患者からの度重なる暴言・暴力行為を受けていた看護師がうつ病を発症しました。その後、病院側の対応が不十分だったとして、裁判所から安全配慮義務違反に基づく損害賠償が命じられました。金額にして約300万円という結果でしたが、それ以上に重いのは、信頼性の低下、医療機関としての評判失墜、人材確保への影響といった経営上のダメージです。

医療従事者の離職理由の上位に常に挙がるのは「人間関係」「労働環境への不満」です。もしそこへカスハラが加われば、まじめに仕事をしているスタッフほど傷つき、やがては現場を去ることになってしまいます。スタッフの定着と安全の確保は、診療の質そのものを左右する要素であることを忘れてはなりません。

いまからできる「現実的なカスハラ対策」とは?

ここで、クリニックでいますぐ対策に取り掛かるための「3つのステップ」を紹介します。

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第一に必要なのは、「当院ではスタッフへの不当な言動を許容しない」というメッセージの明確な打ち出しです。待合室や受付にその旨を掲示することで、患者側に「ここは毅然とした対応をする組織である」という印象を与えることができます。これは単なる注意喚起ではなく、トラブルの抑止力として非常に効果的です。

次に必要なのは、職員が安心して対応できるマニュアルや対応フローの整備です。カスハラの被害に遭遇した際、個々の判断に委ねてしまうと、職員は孤立し、状況がさらに悪化することがあります。たとえば、「困ったときは必ず院長または責任者に報告する」「無理に謝罪せず、冷静に話を聞く」「暴言があれば記録し、しかるべき対応を取る」といった、最低限のルールを共有するだけでも、現場の心理的負担は大きく軽減されます。

そして最後に重要なのが、日々の記録と外部との連携です。記録は事後対応の根拠となるだけでなく、職員の「自分は守られている」という安心感にもつながります。弁護士や、場合によっては警察、警備会社、社労士などの外部機関とも連携をとりながら、「ひとりで抱え込まない仕組み」を構築しておくことが、組織の信頼性を高める鍵になります。

対策を行うことで得られる実質的なメリット

「そんなに厳しくしすぎると、患者様が離れてしまうのでは?」と心配される先生もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、カスハラ対策を講じることで、むしろ「良質な患者層」が定着しやすくなる傾向にあります。

ハラスメントを放置する職場は誠実に働くスタッフを疲弊させ、結果として診療の質が下がり、ミスが増えます。一方で、スタッフが安心して働ける職場は自然と笑顔が増え、患者様対応の質も高まるため、患者様側の満足度も上がります。こうした好循環は、結果的に地域での評判やクチコミにも結びついていくのです。

また、近年では医療職の人材確保が難しくなっていますが、「安心して働ける職場」であることが、採用力に直結するといえます。スタッフに選ばれる職場を目指すなら、カスハラ対策は単なる法令対応にとどまらず、経営戦略の一環として捉えるべき項目といえるでしょう。

開業と同時に「職場を守る文化」を根付かせよう

クリニックの開業は、多くの決断と投資を要する一大プロジェクトです。しかし、患者様を迎える体制と同時に、スタッフを守る体制も整えることが、安定的な運営の基盤となります。

カスハラ対策がなされているということは、日々の診療を支えるスタッフにとって、もしもの時の心の支えになります。そしてその心のゆとりが、患者様への丁寧な医療につながります。

「うちはまだ小さいクリニックだから...」と考えることなく、開業時だからこそ始められる「強い組織づくり」を進めていきましょう。

社会保険労務士法人WILL
代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢

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監修者

株式会社コスモス薬品

本社を福岡県福岡市に置く東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。

2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33年連続増収。
日本版顧客満足度指数の「ドラッグストア」において14年連続第1位を獲得。

クリニックの開業サポートにも注力し、2024年8月現在、開業物件店舗数は約350店舗。 集患に有利なドラッグストア併設型物件を全国各地で多数取り扱っている。

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