コラム・インタビュー
クリニックの開業に失敗したら?...実例に学ぶ、「転んだあと」のドクターのキャリア形成

クリニックの開業を決意し、実際に準備を始めると、銀行融資、物件の契約、内装工事の比較・検討、導入する医療機器の選定、スタッフ採用など、開業に向けたさまざまな準備事項や期日に追われることになります。目まぐるしく準備を進めるなかで「開業して失敗したら、どうなってしまうのか」という不安が胸をよぎることもあるでしょう。実情を見ていきます。
順調な滑り出しに油断...スタッフも患者も去り、経営困難に
帝国データバンクの発表した報告(25年1月22日発表『医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)』)によると、2024年の医療機関の倒産件数は、病院6件、診療所31件、歯科医院27件と合計で64件発生し、歴代最多であった2009年(52件)を大きく上回り、過去最多を更新しました。
こうした状況からもわかる通り、医療機関の倒産は増加傾向にあります。医師のキャリアとして、転職の失敗であれば取返しはつきますが、開業の失敗であれば大きな痛手となります。
資金繰りなどに失敗して「開業失敗」となったあとのドクターのキャリアの例を紹介していきます。
小児科医の医師X氏:順調な滑り出しに油断し、倫理に反する行動の結果
都内23区の高級住宅地に開業した小児科医の男性医師X氏(40歳)。これまでは基幹病院や他法人のクリニックで多数の経験を積み、医学的な知識や技術に加えて、人柄も良好。近隣に競合もなかったため、開業から3ヵ月が経過したころには、受診数の1日平均は50~60人まで増加するなど、経営は順調でした。
しかし、開業の滑り出しが極めて順調であることに油断したのか、医療事務のスタッフと道ならぬ関係に陥ってしまいました。
それにより医師が当該スタッフに対してえこひいきを始めたことから、次第に他スタッフのみならず、受診に同伴する患者家族も疑念を持つようになりました。
そしてその後、理由のない休診日の急増から、周囲の疑念は確信に変わり、診療日数の減少・により、患者数も激減してしまいました。
受診数の減少から、スタッフは経営状況を危惧。挙句には基本給や手当が無予告で減給とされたため、スタッフのほぼすべてが去り、残されたのは件の医療事務スタッフのみとなりました。
最終的には、クチコミの拡散により受診患者はほぼゼロになり、運転資金も底をつき、休診を余儀なくされました。

こちらのクリニックは、幸いにも後継者(譲渡先)が決定したため、雀の涙ではありますが、「のれん代」を受け取ることができ、X氏は残りの借金こそあるものの、自己破産は免れたのでした。
クリニックの譲渡を進める一方で、常勤での採用に15件ほど応募しましたが、「なぜ開業をしてわずか6ヵ月で譲渡したのか」という質問に対して合理的な回答ができなかったことから、すべて不採用となってしまったのです。
その後は、いくつかの地方都市の非常勤やスポットの小児科外来や当直勤務など、身体に鞭を打ちながら日々借金返済のため粉骨砕身で勤務しているといいます。
整形外科・内科の医師Z氏:スタッフをないがしろにし、散財した結果

地方都市の整形外科・内科で開業した男性医師Z氏(46歳)も、前述のX氏と同様、周辺に競合がなかったことから、開業後すぐに1日の受診数が60~80人まで増加。しかし、なかなかの盛業ぶりだったにもかかわらず、X氏と同様、閉院へと追い込まれてしまいました。
閉院の原因は、スタッフをないがしろにしたこと、会員制リゾート会員権や高級外車などに散財したことの2点でした。これらによって財政は一気に悪化し、赤字と負債は閉院を検討する1億円程度にまで膨れあがってしまったのです。
最終的に、Z氏のクリニックは大手医療法人Dが承継し、スタッフ、医療機器、1億円の負債もすべて引き継がれることになりました。クリニックには医療法人Dから派遣されたE医師が院長となり、Z氏は医療法人Dの職員として勤務することとなりました。
一見すれば、Z氏は借金を負うこともなく、よい結果のようにも思えますが、就業勤務条件が厳しく「年収500万~600万円相当での勤務。医業収益で1億円の赤字を補填する前に退職した場合、全額を12ヵ月で返済する義務がある」という過酷な条件のもと、覚書・念書に捺印し、勤務医として再スタートを切ることになったのです。
その後、Z氏は疾患に見舞われてしまいましたが、休職も許されず、医療法人Dの透析施設にも通いながら勤務を続けています。
「開業失敗」のレッテルで常勤勤務医としての就労が困難に
クリニック経営が立ち行かなくなり、閉院あるいは第三者に承継した場合、医師は勤務医に戻ることがほとんどです。
「開業失敗」というレッテルがあると常勤勤務医になることは難しいため、定期非常勤医師・スポット勤務医師(X氏)や、負債返済のための厳しい条件付きの勤務(Z氏)となるケースが多いのが現状です。

また、ほかの医師の例としては、保険診療ではない自由診療のアルバイトや、健診・予防接種・問診などに精を出す、医療ビジネスを始めるなど、これまでの勤務医のキャリアを投げ出す方もいました。
一方で、自己破産という選択肢をする医師もいます。医師が自己破産しても、医師免許は剥奪されません(税理士・弁護士は破産による資格制限が発生します)。
自己破産という道を選んだ場合、不動産・車・動産はすべて現金化されて債権者に支払われますが、最低限の現金(99万円以下)と住居や生活必需品などは奪われないため、新たな一方を歩むことは容易です。
自己破産をすると「官報」には掲示されますが、こちらを確認する医療機関はあまり多くないため、自己破産の事実のみで就業には支障はないと思われます。
一方で、キャリアとして「再度のクリニック開業」は、事実上10年ほどは困難になります。
クリニックの開業には1億円程度の資金が必要となり、このすべてを自己資金で用意することは勤務医の待遇では困難です。
そうなると、再度の資金調達のための融資が必要となりますが、自己破産すると、JICC(日本信用情報機構)とCIC(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)では5年間、KSC(全国銀行協会・全銀協・JBA)では10年間に渡って記録が残るため、融資を受けることが難しくなります。つまり、金銭的な縛りで開業が困難となるのです。
このように、開業に失敗してしまうと、閉院後にどのような選択をしたとしても、「取返しのつかない大きな傷」となってしまうため、十分注意することが必要だといえます。
株式会社TTコンサルティング
医師 武井 智昭
監修者 株式会社コスモス薬品
本社は福岡県福岡市博多区。東証プライム市場上場。
「ドラッグストアコスモス」の屋号で、九州を中心にドラッグストアチェーンを展開。
2024年5月期決算売上高は9,649億8,900万円。
M&Aを一切行わず、33期連続増収。
日本版顧客満足度指数の「ドラッグストア」において14年連続第1位を獲得。
クリニックの開業支援にも注力し、2024年現在、開業物件数は約350店舗。
集患に有利なドラッグストア併設型クリニックを全国各地で提案している。

弊社が開業支援をさせていただきます
コスモス薬品が運営するドラッグストアは、日常生活に必要なものが何でも揃う生活の拠点となるお店。その地域で便利に安心して暮すために欠かせない、電気や水道のような社会インフラであるお店。
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